800年以上のワイン作りの歴史を持つ、ハンガリーのトカイ地方へ行ってきました。「トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観」として世界遺産に登録されているエリアです。
この記事では、「トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観」はどのような世界遺産なのか、歴史や構成資産を踏まえて解説していきます。
世界遺産「トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観」とは?
ハンガリーの北東部、スロヴァキアと国境を接するところに位置するトカイ地方は、歴史的なワイン産地で、28の町や村と広大なブドウ畑からなります。

たくさんの種類があるトカイワインの中でも、貴腐ブドウがたくさん使われている「Esszencia(エッセンシア)」と「Tokaji Aszu(トカイ・アスー)」は、歴史的にも高い評価を得ています。トカイの貴腐ワインは、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ、フランスのボルドーのソーテルヌと並び、世界三大貴腐ワインの1つとされています。
2002年にトカイ地方のいくつかの街やワインセラー、ブドウ畑などが「トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観」として世界遺産に登録されました。文化的景観とは世界遺産の概念で、人間と自然の相互作用によって作られた景観のことです。ブドウ畑なんてまさにその概念に当てはまりますよね。
世界遺産に登録された理由は主に以下となります。
- 800年以上にわたってブドウ畑が整備され、ワインが生産されてきた歴史が評価されたこと
- また、併せて広大なブドウ畑、ワインセラー、周辺の町が織りなす独特の景観が評価されたこと
登録名 | トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観 (Tokaj Wine Region Historic Cultural Landscape) |
国 | ハンガリー |
登録区分 | 文化遺産(文化的景観) |
登録基準 | (3)、(5) |
登録年 | 2002年 |
登録範囲は以下です。全7件が構成資産となっています。まず1件目は左下の赤枠内で、トカイを中心としたいくつかの街が登録されているエリアです。ブドウ畑やワインセラーをはじめ、歴史的な邸宅、教会、城跡なども合わせて登録されています。残り6件は丸印の箇所で、各地にあるワインセラー群です。黒線枠内がバッファゾーン(緩衝地帯)です。

トカイとワインの歴史
トカイ地方でワインがいつから作られるようになったかは明らかではありません。資料によれば12世紀にはブドウ畑が作られていたことが分かっているので、ワインの製造はそれ以前と考えられています。
16世紀以降、トカイは一大ワイン産地となりました。今や世界的に有名なトカイの貴腐ワインは、オスマン帝国の進軍のために収穫時期が大幅にずれたことで偶然生まれたという伝承があります。収穫されずに残っていたブドウはしなびてカビが生えていましたが、それが濃厚で甘い貴腐ワインを誕生させるきっかけになったとのことです。
17世紀になるとトカイワインは当時トカイが属していたトランシルバニア地方の歴代領主の大きな収入源になり、オーストリア=ハプスブルク家の支配へ対抗するための資金ともなりました。
18世紀には、この地方の有力者で反ハプスブルク運動の中心人物であるラーコーツィ・フェレンツ2世が、大量のトカイワインをフランスのルイ14世に寄贈しました。ルイ14世が「王者のワインにしてワインの王者」と絶賛したのは有名な話です。ちなみにラーコーツィ・フェレンツ2世はハンガリーの英雄として受け入れられており、ブダペストの英雄広場をはじめ、至る所に像が作られています。また、トカイ地方では彼の名前がついてるワインセラーも多いですね。

20世紀の社会主義体制下では、トカイワインの名声は一時的に下火になりましたが、民主化とともに莫大な投資が行われ、復活しました。今や世界中で親しまれるワインとなっています。
7つの構成資産
世界遺産「トカイのワイン産地の歴史的・文化的景観」を構成する資産を紹介していきます。全7件で構成されています。ハンガリーの旅でいくつか訪問しました。
トカイ・ワイン地区(Tokaj Wine Region)
中心となるトカイをはじめ、いくつかの街や村を含んだエリアです。各地のブドウ畑やワインセラー、教会などの歴史的建造物も含んでいます。
①トカイ(Tokaj)
②タルツァル(Tarcal)
③ボドログケレストール(Bodrogkeresztúr)
④マド(Mad)
⑤タリヤ(Tállya)


実際トカイ村に訪れましたので、以下で紹介しています。トカイワイン飲み比べもしました。

ウングヴァリ・ワインセラー(Ungvári Wine Cellar)
スロバキアとの国境の街シャートラルヤウーイヘイ(Sátoraljaújhely)にあるワインセラーです。
ラーコーツィ・ワイン・セラー(Rákóczi Wine Cellar)
ラーコーツィ・ワイン・セラーはシャーロシュパタク(Sárospatak)にあります。しかし、地図上で探しても見つからなかったため、以下のMapはシャーロシュパタク城になっています。ちなみにシャーロシュパタク城も構成資産ですね。
シャーロシュパタク城は以下で紹介しています。

コポロシ・セラー群(Koporosi Cellars)
シャーロシュパタクの近くにあるヘルツェクート(Hercegkút)のワインセラー群です。
ゴンボシェギ ・セラー群(Gomboshegyi Cellars)
こちらもヘルツェクート(Hercegkút)のワインセラー群です。こちらは実際に訪れました。

ゴンボシェギ ・セラー群に関しては以下で紹介しています。

オレムス・セラー群(Oremus Cellars)
トカイ・アスー誕生の地とされるトルチヴァ(Tolcsva)のワインセラー群です。トカイ地方で最も有名なセラー群です。
トルチヴァ・ワイン博物館セラー群(Tolcsva Wine Museum Cellars)
現在はワイン博物館として公開されているトルチヴァのワインセラー群です。調べましたがどのセラーかは不明でした。トルチヴァへ行けばおそらく分かるのかなと思います。